columns | May 02, 2022

#02 新幹線

BULLET TRAIN[SHINKANSEN]

ピクトグラムで取り上げた日本を構成するさまざまなモチーフを深く掘り下げて、日本の多面的な魅力を発見するEJP Letter’s コラム。第2回は日本のテクノロジーと美意識の結晶「新幹線」です。

何故、新幹線は人々の心を捉えるのか?

海あり、山あり、平野あり。四方を海に囲まれた島国であるとともに、国土の約75%を山地が占める山国でもある日本。古くは牛車や人力車、山間部ではケーブルカーにトロッコ電車、平野部は路面電車など、それぞれの土地にあったさまざまなモビリティ(移動手段)が発達しました。その中でも新幹線は、特別な存在です。

新幹線は「その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう」と法的に定義される、日本における都市間高速鉄道の総称。1度目の東京オリンピックが開催された1964年、世界初の高速鉄道となる東海道新幹線(東京―新大阪)が開業。時速200kmにも及ぶ「夢の超特急」は、戦後日本の希望の光でした。2022年現在は、最高時速320kmに到達。北海道から鹿児島まで日本各地へとネットワークを広げるなど、日本の大動脈としてなお進化を続けており、「新幹線に乗ること」が外国人観光客の訪日の目的の1つになるほど、変わらぬ人気を誇っています。そんな世界に誇れる新幹線の魅力はどこにあるのか?フロントランナーである東海道新幹線を通じて、改めて掘り下げていきたいと思います。

正確性・高頻度

新幹線を語る上で外せない大きな特徴が、ダイヤの正確性です。JR東海のアニュアルレポート2020によると、1日あたりの列車本数は378本、輸送人員は45万8千人。東京駅を発車する新幹線は、高速鉄道としては類を見ない平均3分30秒間隔で、多くの外国人旅行者が驚くと言います。さらに、過密ダイヤにもかかわらず、運行1列車あたりの平均遅延時間はたったの0.2分。これは大雨、豪雪などの自然災害による遅延も含めたもので、通常の運行における遅延は限りなく「ゼロ」という驚異の定時運行率を誇っています。

なぜこの神業とも言えるダイヤが実現できるのか?その理由の1つが、「15秒単位」で刻まれた運行ダイヤです。駅の時刻表を見ると、「分単位」で記載されていますが、実際は0秒発、15秒発、30秒発、45秒発のいずれか。乗務員用の時刻表には、「6:00:15(秒)」「6:00:30(秒)」のように15秒単位で記載されています。少しでも遅延が発生すると、新幹線総合指令所に警報が出され、指令員の指示のもと、乗務員、各駅のスタッフが一丸となって全力でダイヤの回復にあたります。

東海道新幹線を運行するJR東海のスタッフの制服、その左腕には「りんどうの花」が刺繍されています。りんどうの花言葉は「正義」「正確」。正確性・定時性への飽くなき信念は、こんなところにも表れています。


安全性

「乗車中の旅客の死傷事故が開業以来ゼロ」。新幹線は類い稀な安全性を備えていることも、大きなトピックです。超高速運転を行う新幹線は急停車が難しく、時速300kmで走ると停車まで約4kmは要するといわれており、線路内に何かの拍子に障害物が侵入するだけで大事故につながる可能性があります。そこで急ブレーキが必要な状況を作らないよう、どんな小さな道とも一切平面交差しない専用の軌道を敷くこと、そして列車同士の衝突と速度超過を防ぐため、列車間の距離に基づいて出力可能な速度を制限し、その速度を超えれば、自動的にその速度までブレーキをかけるATCシステム(Automatic Train Control:自動列車制御装置)を導入すること。主にこの2つの仕組みを軸に衝突の可能性をできる限り排除することが、新幹線の安全性に対する考え方の基本となっています。

しかし、どれだけ衝突の回避を徹底しても、その安全性を不可抗力で脅かすのが「自然災害」です。日本はその地理的条件から、台風や地震などが発生しやすい場所。悪天候や地震による運転停止を厳格に行うほか、構造物の強化をはじめとする地震対策、地震以外にも津波、雨、浸水、風、落石・なだれ、雪など、あらゆる事態を想定した対策が徹底して行われています。そうした取り組みが功を奏し、2011年の東日本大震災発生時も「早期地震検知システム」が作動し、高架線柱の損傷など被害は生じたものの、重大事故は発生しませんでした。その他にも、技量向上訓練や異常時対応訓練、不測の事態に備えた社員教育など枚挙にいとまがないですが、あらゆる事態を想定した地道な安全対策の積み重ねが新幹線の安全性を支えています。


環境性

新幹線は、多くの人が抱くイメージ以上に、環境負荷の低い乗り物でもあります。地球温暖化に与える影響が大きいとされるCO₂ですが、そもそも鉄道は国内全体の旅客輸送量のうち約30%を担っているにもかかわらず、CO₂排出量では7%を占めるにすぎません。さらに航空機との比較では、新幹線は東京~新大阪間を移動する際の1座席あたりのエネルギー消費量は約8分の1で、CO₂排出量は約12分の1です。

なぜこうした低負荷が可能なのか?その1つの要因が、車両の軽量化の取り組みです。鋼鉄からアルミニウム合金に素材を変更するなど、0系では1両あたり約60トンあった車体は、N700系では約44トンまで軽量に。消費電力も削減され、結果的にCO₂排出量の削減に貢献しています。

また新幹線は、ブレーキをかけた際に生まれたエネルギーを、架線を通して他の列車で再利用。カーブを通過する際も、わずか1度傾いて走ることで、スピードを落とさず、少ない電力で走ることができます。さらにその役目を終えて廃車する場合も、発生する廃棄物の約90%(重量比)をリサイクルしています。こうした取り組みが認められ、東海道新幹線は、地球温暖化防止活動環境大臣表彰や地球環境大賞などを受賞。省エネルギーな車両開発など、環境負荷の少ない乗り物であるための新幹線の取り組みは、現在進行形で続いています。


快適性

超高速走行しているとは思えないような、快適な移動ができることも新幹線の大きな魅力です。静粛性を高めるためのさまざまな取り組み……例えば、車体が揺れ出すと逆方向の力でその揺れを打ち消す装置や、「ガタンコトン」という音を発生させないつなぎ目の少ない「ロングレール」の採用、さらに「車体傾斜システム」という、車体を傾けることによって乗り心地への影響を相殺し、カーブを高速で通過できる装置を搭載するなど、日々進化を遂げています。

また新幹線の快適性は、フィジカルに感じるものだけにとどまりません。東海道新幹線はどんなに過密ダイヤでも、終着駅に到着すると、清掃スタッフがわずか数分で車内清掃を完了し、気持ち良い状態で新しいお客様をお迎えすることを慣例としています。また、トイレは丁寧で細やかな清掃を怠らず、いつも清潔な状態が保たれており、座席に座っていると、飛行機のようにパーサーがワゴンに載せられた飲み物や軽食、お土産などを車内販売してくれます。清掃スタッフが清掃終了後、丁寧にお辞儀をしながら、新幹線をお見送りするシーンにも象徴されるように、新幹線に乗ることは、日本のおもてなしの精神に触れることでもあります。ハード・ソフト両面でホスピタリティを享受できるのが、新幹線を唯一無二の存在たらしめる一因でもあるのです。

日本のさまざまな新幹線

0系

デビュー:1964年 最高速度:210km/h 運行区間:東京~博多(開業当初は東京~新大阪)

愛称:ひかり、こだま

初代の営業用新幹線で、同時に世界初の高速鉄道専用車両。空気抵抗の低減のために航空機のような丸みのある流線型スタイルと、白とブルーのツートーンカラーがトレードマーク。長期間にわたり東海道・山陽新幹線の顔として活躍したが、2008年惜しまれながら、営業運転を終了した。

100系

デビュー:1985年 最高速度:220km/h(V編成は230km/h) 運行区間:東京~博多

愛称:ひかり、こだま

東海道・山陽新幹線の第2世代の車両として、騒音と空気抵抗の低減を図るために、よりシャープさを増した先頭形状が特徴。さらに、新幹線初の2階建て車両や食堂車、個室車など、時代のニーズに対応したサービスが備えられ、人気を集めた。

300系

デビュー:1992年 最高速度:270km/h 運行区間:東京~博多

愛称:のぞみ、ひかり、こだま

新幹線のさらなる高速化へ、東海道新幹線「のぞみ」用としてデビューした車両。車体の軽量化と空力特性の向上を図り、当時の最高速度270km/hを実現した。3時間近く要していた東京~新大阪間を、2時間30分に縮めた。

500系

デビュー:1997年 最高速度:300km/h 運行区間:東京~博多

愛称:のぞみ、こだま 

当時の世界最高速度300km/hを目指して開発された車両。空気抵抗を減らすため、ジェット戦闘機のような鋭く尖ったロングノーズと円筒形の車体が特徴。スピードを追求した斬新なデザインで、歴代新幹線の中で今なお高い人気を誇る。

700系

デビュー:1999年 最高速度:285km/h 運行区間:東京~博多

愛称:のぞみ、ひかり、こだま 

速さだけでなく、乗り心地や居住性、経済性にも優れた車両を目指して開発され、騒音やトンネル微気圧波に対応したカモノハシのような先頭形状が特徴。新世代のスタンダード車両として、N700系をはじめとする後継車両のベースとなっている。

N700系

デビュー:2007年 最高速度:300km/h 運行区間:東京~博多

愛称:のぞみ、ひかり

700系の「次」(Next)を担う、「新型」(New)車両として開発され、高性能の700系をベースにしながらも、500系並みの最高速度300km/hを実現。セミアクティブサスペンションの搭載など、乗り心地の改善や騒音、振動の軽減が図られている。

800系

デビュー:2004年 最高速度:260km/h 運行区間:博多~鹿児島中央

愛称:みずほ、さくら、つばめ 

新八代駅~鹿児島中央駅間が部分開業した際に登場した九州新幹線専用車両。日本の「伝統」をテーマにした車両で、座席の素材には西陣織、内装には九州産の天然木をふんだんに使用。洗面室も熊本県八代産のい草を使った「縄のれん」が設置されるなど、贅沢な空間が広がる。

E4系Max

デビュー:1997年 最高速度:240km/h 運行区間:東京~新潟 など

愛称:Maxとき、Maxたにがわ、Maxあさひ など

オール2階建て新幹線E1系Max(Multi Amenity Express)の2代目として開発された車両。16両編成時の定員は1,634名で、高速車両としては世界最大の定員数を誇ったが、惜しまれつつ2021年定期運転を終了した。

E5系

デビュー:2011年 最高速度:320km/h 運行区間:東京~新函館北斗

愛称:はやぶさ、はやて、やまびこ、なすの

最高速度320km/hの営業運転を目指して開発された、東北・北海道新幹線の主力車両。ロングノーズが美しいダブルカスプ形(水鳥の口ばしのような形)の先頭車両が特徴。グリーン車のさらに上を行く新幹線のファーストクラス「グランクラス」を初めて設置した。

E6系

デビュー:2013年 最高速度:320km/h(新幹線区間) 運行区間:東京~秋田

愛称:こまち、はやぶさ、やまびこ、なすの

在来線の線路幅を新幹線と同じ1,435mmに拡げて、新幹線車両が直通できるようにした「新在直通運転」を行う車両。通称「ミニ新幹線」と呼ばれる。320km/hに到達する新幹線区間での高速走行安定性と、在来線区間での曲線通過性能を両立している。

923形 ドクターイエロー

線路や架線の状態など、新幹線の高速運転を支える設備を走りながらチェックする点検車両。正式名称は「新幹線電気・軌道総合試験車」。「新幹線のお医者さん」「ドクターイエロー」の愛称で親しまれ、いつ走るのか?ダイヤがないため、目撃すると幸せになれるという都市伝説がある。

リニア中央新幹線 L0系

完成予定:2027年 最高速度:500km/h  運行区間:品川~名古屋(大阪まで延伸予定)

磁石の力を使って、時速500kmの浮上走行を実現する、超電導リニア車両。2027年の完成を目指して、建設・整備が進む。品川~名古屋間を現在の東海道新幹線「のぞみ」より約50分短い40分、品川~大阪間を約70分短い67分で結ぶ予定。

columns Home