#01 麺
NOODLE[MEN]ピクトグラムで取り上げた日本を構成するさまざまなモチーフを、より深く掘り下げて、日本の多面的な魅力を発見するEJP Letter’s コラム。第1回は、EJPでも数種類を制作した「麺」です。(写真:岡庭璃子)
日本の麺のはじまりは、お菓子?
現在日本には、原料や太さ、製造方法が違えども、「麺」と呼ばれる食品が数多くあります。その歴史を紐解くと、小麦の麺は約1,300年前の奈良時代にはもう食べられていました。ただし、現在のような細長い形ではなく、中国から伝わった「索餅(さくべい)」というもの。小麦粉と米粉を混ぜて塩水で練り、縄のように細長くねじって作ったお菓子の一種であったと考えられており(中国語で「索=太い縄」「餅=小麦粉と米粉を混ぜ合わせたもの」を意味)、これが現在の「そうめん」のルーツになったと一説では言われています。
その後、14世紀後半の初級教科書「庭訓往来(ていきんおうらい)」に、「素麺(そうめん)」や「饂飩(うどん)」「棊子麺(きしめん)」という言葉が登場。主に禅宗の僧侶が点心(間食として食べられた軽い食事)として食していたようです。うどんが庶民の生活へ定着したのは、効率的に製粉できる回転式の「石臼」が広まった江戸時代初期。江戸の町は「うどんの町」と称され、東海道や中山道の茶屋で出されるのも、蕎麦ではなくうどん・そうめんが主流でした。なお当時は醤油がまだ普及しておらず、味噌味で食べるのが一般的。さらに、現在のようにうどんの「コシ」も意識されていなかったようです。
蕎麦は遅咲きの食べ物?
一方、日本の食文化を代表する「蕎麦」は、縄文時代の遺跡から花粉や種子が出土。数千年前から栽培されていたと考えられますが、文献の記録に登場するのは奈良時代の頃。当時はまだ製麺技術がなく、粒のまま粥にして食べていたようです。ただ現在のように積極的に食されていたわけではなく、蕎麦が荒れた土地でも育ち1年で数回収穫できるため、飢饉などに備えた非常食の意味合いが強く、貴族社会ではほとんど食べられていませんでした。その後も、臼で挽いた粉を熱湯でこねて団子状にした「蕎麦がき」などの食べ方しかありませんでしたが、現在の麺状に近づいたのは17世紀の江戸時代初期の頃。ただし、つなぎ(小麦粉)を使う文化がなく、茹でると細かく切れてしまうため、蒸籠(せいろ)で蒸すのが主流だったと言います。現在も蕎麦屋に「○○せいろ」というメニューがあるのは、その名残です。そんな蕎麦が江戸っ子の支持を集め出したのは、18世紀の初め頃。小麦粉をつなぎに使う技法が伝わったことで、「蒸す」から「茹でる」に調理法が変化し、モサモサしない食感や本来持つ味を楽しめるように。江戸の町ではうどん屋に代わり蕎麦屋が激増し、日常的な食べ物として庶民に定着していきました。「年越し蕎麦」の習慣や、「そばに参りました」の意味を込めた「引っ越し蕎麦」の習慣も、この頃に生まれたと言われています。
全国各地で進化を続ける麺
奈良時代に食文化としての歴史が始まり、さまざまな変遷を経て、切っても切れない関係を築いてきた麺と日本人。うどんや蕎麦のみならず、19世紀後半にはパスタが、20世紀初頭にはラーメンが、第二次世界大戦後にはインスタント麺が、そして近年は冷凍麺が食卓を賑わすなど、子どもからお年寄りまで誰もが愛する国民食として進化を続けています。さらに日本全国には、ご当地麺と呼ばれるユニークな麺も数多く根付いています。新しい日本の発見へ、旅で美しい風景や古き良き伝統・文化を楽しむのもいいですが、「まだ知らない麺との出会い」をテーマにした「麺ツーリズム」も一興かもしれませんね。
うどん
主な原材料:小麦粉(中力粉)、水、塩
水ではなく、塩水で作るのが特徴。塩には、小麦粉の成分「グルテン」の粘性を高める性質があり、生地の粘りや弾力を生み出す。平たく薄い愛知県の「きしめん」や、塩を加えず生地を打つ山梨県の「ほうとう」など、地域で独自の進化を遂げている。
そうめん
主な原材料:小麦粉、水、塩、植物油またはでんぷん
麺の乾燥を防いで細く長く延ばすために、表面に植物油を塗りながら作るのが特徴。大別して「手延べそうめん」と「機械そうめん」があり、前者は人の手で丹念に延ばしていくため、張りと弾力のある仕上がりになる。
蕎麦
主な原材料:蕎麦粉、水、つなぎ(小麦粉)
蕎麦粉30%以上、小麦粉70%以下の割合で製麺したもの。蕎麦粉100%のものを「十割蕎麦」、蕎麦粉80%・小麦粉20%のものを「二八蕎麦」と呼ぶなど、蕎麦粉と小麦粉の割合によって呼び名が変わるのが特徴。
中華麺
主な原材料:小麦粉、水、かんすい(アルカリ性の水溶液)
ラーメンや焼きそばなどに使用される。麺に独特の食感や喉越し、色味を与える添加物「かんすい」を加えるのが最大の特徴。色が黄色なのは、小麦粉に含まれる「フラボノイド」という物質がかんすいのアルカリと反応するため。
パスタ
主な原材料:デュラム小麦、水 など
強力粉の一種であるデュラム小麦をセモリナ状(粗びき)にしたものが原料で、一般の白い色の小麦粉に対し、鮮やかな黄色が特徴。太さや成形方法で、スパゲッティやカッペリーニ、マカロニなど名称が変わる。
フォー
主な原材料:米粉、水
日本でも近年市民権を得つつあるベトナム発祥の麺。米粉が原料の白く平たい乾麺で、米粉を水でペースト状に溶かし、蒸した後に乾燥させて作るものが多い。中国発祥の「ビーフン」も米粉を使用するが、うるち米から採取したでんぷんを原料とする。
春雨
主な原材料:でんぷん(緑豆、芋など)、水
中国発祥で、約1,000年前に伝来。当初は「唐麺」などと呼ばれ、「春雨」の名が付いたのは1930年代のこと。中国ではもやしの原料である緑豆で作られるが、日本は緑豆の栽培に不適で、じゃがいもやさつまいものでんぷんが使用される。